スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「これは貸しにしとくからな」

杏子のSS。杏子と平和組
いつものようにスーパーマーケットからせしめたパンにかぶりつき、牛乳で胃に流し込む。
別に食事時というわけではなく、時間の程は昼過ぎで、3時のおやつにはまだ早いという頃だ。
佐倉杏子は随分と軽くなったスーパーの袋の中身を見て舌打ちをした。

「あーもうこんだけしかねーや…食い過ぎた」

普段から特にすることもなく、気が付いたら今日もこうして、散歩がてらぶらぶらしながら歩き食いをしている。
しかもなかなか太らない体質なのか、どんなに物を食べてもどこか物足りないように感じるのだ。
とりあえず適当な店を探して今日の分の食糧は確保しておきたいところである。

「…ん」

空間がほんの少しだけ歪んでいき、杏子はいつの間にかその中に足を踏み入れていた。
魔女が作り出し、隠れ潜む空間。辺りを何気なく眺め、杏子はまた一口パンをかじった。

「雑魚じゃん…産まれたての使い魔か」

異空間をちゃんと生成しきれておらず、元の風景が所々見える。まだちゃんと自分の力を制御できていないのだ。
不意に、聞き心地の悪い、幼い男の子の笑い声が杏子の耳に届いた。
気でも振れたかのようなその声は、主が人間ではないことを杏子に教えていた。
声は次第に大きくなっていき、そしてついに姿を現した、宙を浮いていて、顔いっぱいの大きさの一つ目を持った人型の使い魔だった。
使い魔は杏子の姿を確認すると、狂ったように首を振り回しながら杏子へ飛び掛かった。

「ふん…!」

平静どころかその表情は余裕さえ感じさせる。
パンを加えたまま杏子は魔法の槍を取り出し、多節棍モードへ変化させる。そのまま使い魔の体を雁字搦めにし、地面へ強く叩きつけた。
大した力を持たない使い魔など杏子ほどの腕前なら変身せずともねじ伏せることは容易い。
しかし殺しはしない。魔女まで育っていれば遠慮なく仕留めるが、使い魔ならここで倒してもうま味はない。

「よえぇ…もっと人間を喰って強くなってから出直すんだねえ?立派な魔女になったら戦ってやるよ。それまでは見逃してやるからさ」
『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!』
「あと出来ればここら辺うろついてろよ。特に見滝原なんかに行ったら『あいつ』に殺されっからな」

何も本気で使い魔に言葉が通じるだなんて杏子も思っちゃいないが、こういうのは気迫が大事だ。
杏子は槍を収め、使い魔を開放する。使い魔は怯えたように跳ね上がり、奇声を上げながら一目散に逃げ出した。
周囲の風景は元に戻り、すっかりいつも通りだ。しかし先ほどまでの余裕の表情とは逆に、杏子の顔色は冴えない。

「クソ…情けねえ。もう決めたことだってのに」

『人を喰う』とは無論『殺す』ことである。消し去ったはずの杏子の良心が彼女自身の心を責めたてるのだ。
だが確かに、喰われる人間はたまったものではないだろうが、杏子も命懸けだ。慈善事業で魔法少女をするわけにはいかない。
杏子は一つグリーフシードを取り出し、訝しげに眺める。
使い魔が育ち、魔女まで成長したものが持つ、魔力の源。魔法少女は古今東西、これを集めるために戦うのだ。

(『こんなもの』の為にねえ…。)

こう言ってはなんだが、普通の人間にとってはゴミ同然ほどに役に立たない代物である。
しかしこれは消耗した魔力を満たしてくれる、魔法少女にとっては無くてはならないものだ。
魔法少女同士の対立も少なくない以上、まさに生命線となるものなのである。

しかしただ一人、このグリーフシードを貯蓄せず、魔女や使い魔を片っ端から倒していっている魔法少女がいることを杏子は知っている。
見滝原の『あいつ』。魔女はともかく、使い魔に対しても常に全力で挑むその戦い方は、今考えたら無謀と言うほかにない。

「巴マミ…」

その人物の名をぽつりと呟く。
今は敵対している(どちらかと言えば一方的に敵視している)が、時には肩を並べて戦ったこともある間柄だ。
決してマミの心配をしてるわけじゃない。仮にマミが死んでいるのなら、見滝原を頂くまでのことだ。
杏子自身はこの近所ではマミに次ぐ…否、タメを張れるだけの実力を持っているつもりである。
もしマミに代わって他の魔法少女が見滝原に居るのなら、力ずくで奪い取ってしまえばいい。

(つってもまあ、ありえねーよな。マミが死ぬなんてことがあったら、あたしらん中じゃ大ニュースになる。キュゥべえのヤローもすぐあたしに言いに来るだろーし)

そうこう考えている内に買い物袋の中身が空っぽになっていた。気が付いたらものを食べている癖はどうにもしがたい。

「んじゃ、久々にアイツの顔、拝んでくるとしますか」

袋を丸めてつつ、杏子は見滝原へと足を進めていた。
その表情はどこか楽しげだが、当の本人はそのことには気づいていないのであった。




相も変わらず、見滝原は何も変わっていない。数年ぶり、と言うわけでもないので当たり前と言えば当たり前である。
ちらほらと見滝原中学の制服を着た生徒たちが見え始める。マミも通っている中学校だ。もう彼女に近いとこまで来ているのだ。

(この時間はまだ家に帰ってねえだろうな。どっかで魔女探しのパトロールしてるはずだ。マミの家の前で待つか、それとも)

今日は結構歩き回ったし、マミの家の周りで適当に時間を潰すのもいいかもしれない。下手に動き回って入れ違いになってしまっても面倒だ。
そんなことをぼんやり思っていたら、杏子のお腹の虫が低く大きく鳴き、空腹を訴えてきた。

(あー…また腹減ってきた…。…しゃーねー、食糧調達がてら、それっぽいところを探し回るか)

マミの住んでいるマンションまではまだあるし、とりあえず手近なコンビニを探すべく、杏子は歩き出した。
さっきはパンと牛乳だったから、今度はおにぎりとお茶がいいだろうなどと、マミの様子を見ることは完全に『ついで』となっていた。
しばらくして人気が少なくなってくる。杏子は特にどうとも思わず、頂くおにぎりの具は何にしようかとのんきに考えていた、その瞬間、それは訪れた。
今日二度目となる、魔女の結界へのご招待だ。空間は歪み、日常の風景が消えていく。杏子は頭を押さえながら大きくため息を吐いた。

「ったく情けねえ…二度も気付かねえなんてな」

さっき見逃した使い魔の時とは違い、今度は割としっかりとした異空間だった。それなりに強い力を感じる…もしかしたら魔女かもしれない。
元々マミの様子を見るために結界を探そうとしていたのだから、一応結果オーライだ。
問題があるとすれば腹の虫が大合唱中で杏子の機嫌が著しく悪いことくらいだ。

「別に獲物を横取りする気はなかったんだけどな…悪く思うなよな、マミ!」

突如、結界内に住んでいるらしき使い魔たちが現れ、一斉に杏子へと襲い掛かる。その見てくれは4つ足の生えた電気スタンドと言ったところか。
熱を帯びた蛍光灯に当たる部分をぶんぶん振り回して押し寄せてくる。

「気持ちわりぃんだよ…!」

また腹が鳴った。杏子は半ばやつあたりに近い形で使い魔の群を睨みつけ、手をかざした。
ソウルジェムを輝かせ、変身を試みた…その時だった。
上方から魔女の群れに対して一条の桃色の光が突き刺し、爆音とともに炸裂したのだ。
それに続き、今度は蒼き光に包まれた人影が追い討ちをかけるように使い魔の群れへ突っ込み、もう一度大爆発を起こす。
爆風の衝撃で杏子の長い髪がバサバサと暴れる。

(魔法少女…!?)

使い魔に突撃した蒼い人影は、間違いなく魔法少女のものだ。
だがその姿はこの地域を守っている筈の巴マミの姿とは違う。

「危ないよ、下がってて!」
「!あ、あぁ…」

杏子の目の前に、もう一人、ひらひらピンクの服装を身に纏い、ツインテールで背が低い女の子が降り立った。
右手には魔法で生成されたと思わしき弓が握られている。

(こいつも魔法少女…!)

やはり、マミではない。
一瞬、ここは見滝原ではないのではと杏子は錯覚してしまった。
2人でチームを組む魔法少女…キュゥべえの話によると七人一組で魔女と戦う魔法少女たちも居るらしいが、この近所でチームを組む魔法少女とはあまり聞いたことがない。
そうこう考えているうち、ピンクの魔法少女が使い魔に向けて弓を構えた。光の矢がどこからともなく現れ、弓をしなっている。

「さやかちゃん、撃つよ!」
「オッケー!頼むよまどか!」

使い魔の群れから複数体の使い魔が弾き飛ばされる。
そこから姿を見せたのはマントを身に着け、青を基調とした衣装に騎士の剣を振り回している。
さやかと名を呼ばれた少女は大きくジャンプし、飛び上がった。そこにまどかの引き絞っていた矢がエネルギーの奔流となって解き放たれた。
刹那にして使い魔たちは飲み込まれていき、断末魔とともに消滅していく。
まどかという少女の小さい体に反した極太のエネルギー砲が全ての使い魔を消滅させた…いや、一体だけエネルギー波に耐えた奴がいる。
見た目は他の使い魔と同じだが、放っているプレッシャーは桁違いである。

(間違いねえ…この結界を作ってるのはコイツだ!)

使い魔は人を喰い、魔女へと成長する。そしてコイツは今まさに魔女へと変わろうとしているのだ。
力自体もかなり上がっている。…だが使い魔は使い魔。倒したところでグリーフシードを落すことはない。
この状態の使い魔は手強いうえに報酬がない。とあれば、さっさと魔女にしてしまった方がいい。
杏子の思考の動きと裏腹に、まどかとさやかと言う少女は戦いをやめようとしない。

「これが本体だよ!」
「よっしゃ、いただき!」

上空に飛び上がっていたさやかが大剣を構え、その使い魔に狙いを定めているところだった。
杏子は体が思わず動き、声も出かけた。

「お、おい、そいつは…」
「はああああああああああああああ!!」

しかし時すでに遅し。上空から超スピードのさやかが使い魔目がけ落下、砂ぼこりのような粉じんが舞い上がった。
煙にまみれてうっすら見えたのは、大剣が突き刺さり身動き一つ取らなくなった使い魔の姿だった。

(…あーあ)

自分のテリトリーではないのだから別にどうだっていいと言えばいいのだが。
結界が消え景色が戻るも、杏子は関心なくただただ、『勿体ない』と思うだけである。

「大丈夫?」
「いや~危ないところだったね」
「…あぁ」

助けてもらっておいてこう思うのもなんだが、屈託のない笑顔を見せる二人の魔法少女は杏子の癇に障る。
他人のため、人助けの為と言わんばかり…。杏子からしたら巴マミと同じ、『甘ちゃん』そのものだ。

「……お前ら、見滝原の魔法少女か?」
「「!?」」
「どうなんだ?」
「…そうだよ。…もしかしてあなたも魔法少女?」
「まあな」

2人のうち、まどかの方が杏子に答えた。
笑顔を作ってはいるが少し警戒している風だ。
もう一人、さやかの方に至っては、敵意とまではいかないが、いつでも構えられるようにか、手にしている剣を気持ち持ち直している。
だが別に気に止める必要はない。さっきの戦いを見る限り、2人が束になっても自分に敵うことはないという確信があるからだ。

「それより、ここは巴マミのテリトリーだったはずだが…てめえら一体なんだ?なんでここで魔法少女をしてる?」
「お前、マミさんを知ってるのか?」
「こっちの質問に答えろ」
「…それが他人にモノを聞く態度かよ」
「いいから答えろっつってんだよ!」

さやかがこっちと張り合えるつもりでいるのも、杏子との力量差が分からない、いわゆる未熟者だからである。
この2人が力ずくでマミからテリトリーを奪えるとは思えない。
マミの事は知っているようだし…となればマミとは親しい関係にあると考えるのが自然か。

「ま、待ってよ!さやかちゃんも落ち着いて…。あの…」
「…杏子だ」
「杏子ちゃんだね。あたしは鹿目まどかで、こっちが美樹さやかちゃん」
「まどか!あんまり容易く自己紹介すんなよ!何者かわかんないんだよ!?コイツ」
「でも同じ魔法少女だし…マミさん以外の魔法少女のお話も聞いてみたいかなって思ったんだけど…」

愚直なまでに純粋な眼差しだ。杏子にとっては好都合だが少し良心が痛む気がする。
今はもう居ない、自分の妹を思い起こさせるのだ。

「…マミとはどういう関係なんだ」
「私たちの先輩だよ。同じ学校の…あと魔法少女でも…。えと、先週くらいにね、あたしとさやかちゃんが使い魔に襲われたところを助けてもらったんだ」
「それで、魔法少女に…か?」
「う、うん。キュゥべえに願いを叶えてもらってね。マミさんとこの町を守ろうって決めたんだ!」
「やっぱりか…」
「あたし達まだそんなに強くないけど…でも、いつかマミさんみたいに強くなれたらなって」

まどかのことを一瞬でも妹と重ね合わせ、頭を抱えたくなる。…いや、妹を使うのはよくない。
彼女はまるで在りし日の自分そのものだ。魔法少女としての使命感に燃え、正義を信じて戦うことを決めた青臭い頃の自分。
ただ彼女はまだ上辺だけしか知らないのだ。おそらくさやかの方もそうだろう。魔法少女の真実を知った時、彼女らはどうなってしまうだろう。
それを考えたとき、巴マミに対して言いようのない怒りが沸きあがってくる。

「巴マミはどこだ…!居るんだろ!?」
「ちょとアンタ!一体出てきて何なんだよ!そっちこそマミさんの何なんだ!」
「ライバルだよ。…考え方が徹底的に合わねえ、殆ど敵だけどな…!」
「そんな奴にマミさんのことなんて教えられるわけないだろ!」
「…お前さ、魔法少女がどんなに危険を背負ってるか分かってんのか?あたしもマミも遊びでやってんじゃない!命懸けなんだぞ!」
「言われなくったって分かってる!マミさんは…!」

そこまで言ってさやかは口惜しそうに言葉を詰まらせたが、その目は杏子に対する敵意をしっかり放っている。
何にせよまどかもさやかもマミの事を相当信用しているように見受けられる。マミの身に何かあったことは何となく察しがついた。

「マミの奴に何かあったのか?」
「………マミさんから話は聞いてる。魔法少女同士はグリーフシードを奪い合って衝突することも多いって…!」
「話すつもりはねえってかい?…ウゼェーな、お前」
「お前なんかにマミさんはやらせない…!」

さやかが手にしていた剣を構えようとする、その一瞬を杏子は見逃さない。
変身はせず、再び槍だけを取り出し剣をを弾き飛ばした。
金属がぶつかり合う音がした後しばらくして、さやかの剣は杏子の後ろへ落ち、地面に突き刺さる。
杏子は間髪入れず、呆気にとられているさやかの喉元に槍を突き付けた。

「…!」
「さやかちゃん!」

「動くな!二人ともだ…!……格の違いってやつがちっとは分かったんじゃねーか?」
「くっ…!」
「巴マミはどこに居るんだ?」
「………」

これだけ追いつめられても表情は変えない。少なくとも根性はあるようだ。
これではどんなに脅してやっても動かないだろう。全く面倒なことだと杏子はイラつく。

「…少しはマジで痛めつけた方がいいか?これでも穏便に済ませる気なんだぜ?」
「アンタの態度じゃ信用しろって方が無理だね」
「チッ…」

思い切りぶん殴ってやってもこれじゃ口は割らないだろう。
全くマミの奴の様子を見に来ただけだというのに予定が狂いまくりだ。この二人は放っておいてマミの家に押しかけた方がいいかもしれない。
そう考えたとき、不意にさやかへ向けていた杏子の槍が弾かれた。さやかが剣を握った様子はないし、まどかとも違う方角からの衝撃だ。
杏子は反射的に後ろへと飛び退り、槍を構えなおし、その方向を見やると、地面からリボンが生えており、それがうっすらと消滅する瞬間が見えた。
消える間際に見えた黄色いリボンは以前に見たことがある。槍を弾き飛ばしたのは十中八九このリボン。
そして杏子が探していた人物がようやく目の前に現れた。

「巴マミ…!」
「久しぶりね佐倉さん。私に、何か用かしら?」

マミの肩にはキュゥべえが猫のようにしがみついている。奴から聞いてやってきたのだろうか。
何にせよ好都合だ。杏子はあらん限りマミの事を睨みつけた。が、まどかとさやかが間に入る。

「マミさん!だ、大丈夫なんですか…?」
「な、なんで来ちゃったんですか!?あいつ、マミさんを狙ってるかもしれないんですよ!?」
「ありがとう二人とも。でも大丈夫よ、佐倉さんは、私の知り合いだもの…ね?」

「……マミ、聞きたいことがある」

自身を押し殺し、柔和な表情で二人をなだめており、杏子に対してもそれを崩さない。
こちらの言いたいことの察しはついているだろうに、と思うと腹立たしく思えてくる。

「その二人を魔法少女に誘ったの、お前か?」
「……。確かに、…助言はしたわ。ただ決めたのは、彼女たち自身よ」
「ふざけんなよ…魔法少女がどんなものかお前はよく知ってるだろ!なぜ無理にでもやめさせておかなかった!」
『それは酷いじゃないか杏子。僕たちにとっては戦力は多い方が助かるんだよ?』
「おめーは黙ってろ!」
『やれやれ』

魔法少女の力を人に授けるのがこのキュゥべえ。杏子の力もこの生き物から授かったものである。
以前はキュゥべえとも友好的な関係を築いていたが、とある事件を境に杏子はこいつの事は信用しないことにしている。
魔法少女の力も仕事も出来れば捨ててしまいたいが、一度踏み込んでしまい、そして大切なものを失ってしまった杏子にとってはもう取り返しが着かないのだ。
マミもそんな杏子の大方の事情を知っている。それなのに二人を魔法少女になることを止めなかったことが許せないのだ。

「どうなんだ、マミ!」
「私は…彼女たちが協力してくれるなら、それで…」
「子供の夢じゃねーんだぞ!最悪、魔女に殺される!そういうのとやり合ってんだろうが!」

感極まって杏子はマミの胸ぐらを掴み、ガン付ける。
すると今度はまどかがマミを庇い立てするように割り込んできた。
強い信念は感じるが、目じりには少し涙が溜まっている。

「わ、分かってるよ!私たち…。本当に命懸けでやってるんだって…。
 マミさんと一緒に戦ってて、マミさんが魔女と戦ってて殺されそうになるの、あたしもさやかちゃんも見てたんだもん!
 そりゃあ、その時は怖いとは思ったけど、それでもみんなで協力すればどんな困難も乗り越えられるってって思ったから!」

叫んでいる最中に嗚咽が混ざり、まともに喋れなくなってしまった。
見かねたさやかがまどかの肩を抱いて胸を貸している。

「…マミさんを離せよ。…今はあんまり体調がよくないんだ」
「体調が?」

マミの胸倉から手を離してやると、確かに少し体がよろめいたように見える。
少し冷静になって見ると心なしか顔色も良くないし、呼吸も乱れているかもしれない。

「………」
「その時の魔女戦でも…いや、もうちょっと前からおかしかったんだけど…
 …でもだから、今は私たちが頑張ってマミさんを支えるんだ!マミさんの体が治るまで
 アンタがマミさんを狙って来たっつーなら私が…!」
「美樹さん…」

やけに威勢がいいのはそういうことか。
まどかにしろさやかにしろ、マミの事を本当に信用しているのだろう。…それならやはり真実はきちんと突き付けてやる必要がある。

「…治らねえよ。あたしの見立てじゃな」
「な、なんだと!?」
「マミ、ソウルジェムを見せろ」

「え…でも、それは…」
「いいから見せてみろよ!」
「うっ………」

まどかとさやかもマミに注目し始める。
マミは初めこそ渋っていたものの、やがて三人の重圧に圧されておずおずとソウルジェムを取り出してみんなに見せた。
マミのソウルジェム…杏子にとっては想像通りの状態にあったが、まどかとさやかの二人は半ば悲鳴のような叫びをあげた。

「そんな…」
「マミさん、それ……」
「………」

マミのソウルジェムは本来なら美しく眩い金色の光を放っている。
だが今マミの手のひらに乗っているそれはおおよそ美しいとは言い難く、全体的に深く黒ずんでいる。
かろうじて中枢部分が光っているのが分かる程度だ。

「やっぱりだ…!後輩の面倒を見た結果がこれかよ、ザマアねえ!」
「マミさんのソウルジェムが、こんな真っ黒に…なんで…?」
「魔法を使えば魔力を消費する。魔力を使えばソウルジェムが濁る。それくらいは知ってんだろ」
「魔力を消費すると体の調子を崩しちゃうの…?」
『…少しくらいの消費なら自然に回復するものなんだけどね。ここまでになるとグリーフシードがないと辛い。
 歩き回るならまだしも、魔法も使ってしまった。このままだと……』
「マ、マジなの…?」
「どうしよう…あたしたちまだ一個も持ってないよ…」

困惑して取り乱す2人を余所に、杏子は自分が取り貯めしていたグリーフシードを一つ取りだした。
何時どこで狩った魔女だったかは覚えていないが、今持っているグリーフシードは七個。当面は余裕がある。
ここでマミに恩を売っておくのも悪くないだろう。マミの性格上、いつか見返りがあるだろう…食糧とか。
…さっきのあの使い魔、放っておけばすぐにでもグリーフシードを落とすようになったろうに。
そんなことを考えながら杏子は取り出したグリーフシードをマミのソウルジェムへと当てる。
魔女の卵はソウルジェムの穢れを吸い取っていき、ソウルジェムは見る見るうちに、マミが持つにふさわしい、その輝きを取り戻していった。

『…どうしたんだい杏子。珍しいじゃないか、君が他人にグリーフシードを分け与えるなんて』
「ふん…」
「佐倉さん…あ、ありがとう…その」
「勘違いすんなよ、これは貸しにしとくからな。…これでお前もよく分かったんじゃねーか?お前のやり方じゃぜってー無理が出るんだよ。
 使い魔は放置しておいて魔女だけ退治しておけばいいんだ。それなら自ずとグリーフシードは溜まるし、こうなることも無くなる!」
「…ダメよ。それでは無用な犠牲を出してしまうわ。私の目的はグリーフシード集めではないのよ。あくまで人々の助けに――」
「その結果がコレじゃねーか!ただでさえ無理のあるやり方の癖に、足を引っ張るだけの役立たずが二人!
 どうせグリーフシードは二人に使わせてばっかで、自分の世話を疎かにしてるんだろ!…先輩がそんなんじゃこの二人だっていつか…」
「そんなこと、私がさせないわ…!もしもの時は私が命に代えても二人を守る!それが私の責任だもの」
「じゃあさっきのはどうする気だったんだよ」
「そ、それは…」
「それにオメーが犠牲になってこいつらが喜ぶとも思えねーけどな…」

横目でちらりとまどかとさやかを見やる。杏子とマミ、二人の関係に自分たちが割り込めないと分かっているのか、困惑した面持ちだ。

「まどかと、さやか…つったな?お前ら」
「!」「…なんだよ」
「魔法ってのはな、徹頭徹尾、自分のために使うもんだ。…お前らがどんな願い事をしたか知らねえし、どうあってももう手遅れだ。
 ただ、他人の役に立つために魔法少女をやる…そんな考え方は捨てた方が身のためだぜ」

一応、警告はしたが…まあ無駄だろうという事は感づいていた。
こういうのは他人がどう言っても分かるものではない。自らその問題にぶつかり、初めて過ちに気付くのだ。
そしてそれは、本人にとって取り返しがつかないほどに自分自身を追いつめることになる。

「佐倉さん、あなたはまだ…」
「もういい。…そもそも他人のやり方に口挟んでもしかたねえよな。…悪かった」
「…………」
「さやか、お前も大丈夫か?」
「は?あ…ま、まあ…別に怪我はしてないけど」
「まどかも…悪かったよ。助けてもらったのにな」
「い、いえ…。……」

(そもそも何しに来たんだっけな今日…。なんか…ちょっと楽しみにしてたような気もするんだけどな…帰るか)

槍を収納し、杏子はゆっくりと踵を返す。…ゆっくり休むことも出来やしなかった。
マミではなく自分の方がふらつきそうだ。そう言えば腹も減っている。
いよいよ夕飯の事を考えなきゃならない、そう思った時、背中から彼杏子を呼ぶ声がし、その足が止まる。

「き、杏子ちゃんっ!」
「!?…まどか…?」
「あの、あたし達と一緒に戦ってくれない…かな…?」
「…は?」

「まどか!?」「鹿目さん…」

いきなり何を言い出すかと思えば。さっきのやり取りを見てなかったのだろうか。

「あたしもさやかちゃんもまだ新米で弱くて…杏子ちゃんの言うとおりマミさんの足手まといにしかならないから…
 でも、杏子ちゃんが居てくれたら、とっても心強いなって…そう思ったから」
「…あのな、お前らはマミの事を心底慕ってるんだろ?あたしはマミのやり方に賛同できないってのは変わらねえんだ。
 …こっちは散々好き勝手言って虫がいい話だって思うだろうけどな」
「でも、マミさんの事を助けてくれた。あたしとさやかちゃんのことだって傷つけないでいてくれた」
「貸しを作っただけだって言っただろ。あたしは使い魔は見逃す!魔女になるまで人を喰わせるんだよ!オメーらにはできねーだろうが!」
「…うん、出来ない…。でもあたし、杏子ちゃんがそれを好きでやってるって…思えなくて…」

杏子の胸の奥が何かに突き刺された気がした。
マミが自分の過去をまどかに語ったとも…正直思えない。
この子は人の心を読み取ることでもできるとでもいうのか…

(いや、そうじゃないだろ…!あたしはマミとは袂を別ったんだ…!)


「佐倉さん、私からも『もう一度』お願いするわ。…私たちと一緒に戦ってほしいの。…美樹さんもいいわよね?」
「え?ん…ああ…そう、かな。マミさんを助けてくれたのは違いないし…悪いヤツじゃないかもしんないけどさ。
 …でも使い魔を見逃すってやっぱできない。…もしまどかの言う通りなら、話くらいならしてやってもいい、けど」
「ふふ、そうよね…。どう?佐倉さん」

「…お前らなぁ」

呆れた声を出すも、心の内では3人に強く惹かれている自分がいる。
どんなに強がったって…一人ぼっちは寂しいものだ。

……だが、いけない。ここで甘えたら『また』全部失う。
杏子は両手で強く頬を叩いた。乾いた音が3人も耳のも届き、静寂が流れた。

「…あたしは自分のやり方を変える気はない」
「佐倉さん…」
「………じゃあな」
「ええ……今度来たときは、とっておきのお料理作ってあげるわね」
「そりゃ楽しみだ」

杏子は3人に背を向けたまま来た道を戻っていく。彼女らがいったいどんな表情をしてるのかは分からないが、これでいいと思う。
そうでなければずるずると引きずられてしまう。後輩は二人ともどこかマミに似ていて、きっと賑やかで楽しいことだろう。

(…せいぜい楽しんでりゃあいいさ。あたしには関係ないからな。ただ…)

その先の言葉は思い浮かべるだけでも小恥ずかしい。
ただ嬉しそうな表情を浮かべているマミを見たのは久しぶりだ。先輩想いの後輩が出来て良かった、と思うべきだろう。
孤独に震えていたマミを救いだした二人…反面、マミの弱さも見えた。自分の体調管理がずさんになるなど、これまででは考えられないことだ。
これではいつか…いつか取り返しのつかないことになりかねない。

「死ぬなよ、マミ」

杏子は誰にも聞こえないように、口の中で静かに呟いた。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

こなゆきガンタンク

Author:こなゆきガンタンク
らき☆すた大好き。高良みゆきは俺の嫁だが、こなた×みゆきの百合も好き。広橋涼のこなたをはじめ、らき☆すた初代声優を応援している。らき☆すた以外ではガンダム。種厨のシン厨、でもTVシリーズは大体網羅してるよ! ニコニコで動画を作ったりSSを書いたりもする。
ニコニコ動画
twitter
pixiv

最新記事
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
twittarブログパーツ
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。